SUMMARY
この記事の要約
卓球ラケットが「赤と黒」に分かれたのは、どちらの面で打ったかを相手や審判が色で識別できるようにするルール改正によるものです。1983年以前は両面を同じ色にする規定があり、裏ソフトとアンチなど性質の違うラバーも色だけでは見分けられませんでした。1983年の異色化と、1985年に決議され1986年に施行された赤黒の指定は、異なる時期の変更として読み分けます。バタフライは、同社の同じ種類のラバーなら色による性能差はないと説明しています。2021年10月には、片面を黒とする条件で反対面に使える色が増えました。
この記事でわかること
「赤と黒」をめぐる疑問は、大きく3つの問いに集約されます。
- なぜ赤と黒になったのか:同色ラバーの騙し合いを封じた1983年の異色化と1985年決議・1986年施行の二段階史
- 赤と黒で性能差はあるのか:メーカーが案内する性能と、色だけでは判断できない理由
- 2021年のカラーラバー解禁とは何か:片面が黒であればピンク・青・紫も使えるようになった現行ルールの意味
1980年代以前は同色が規則だった|反転戦術の時代
ITTFの色の歴史に関する説明によると、1983年以前は両面を同じ色にする規定でした。ラケットの両面が赤や黒であることは、その規定に沿うものでした。色に関するルールが何もなかった時代ではありません。
この「両面が同色」という条件が、当時の卓球界に極めて厄介な戦術を生み出します。ラバーの性能差を色で隠すという手法です。卓球のラバーには「回転がよくかかる裏ソフト」と「自分から回転を加えにくく、受ける球で返球が変わる粒高やアンチラバー」など、異なる性質のものがあります。それぞれの違いは卓球ラバーの種類と特徴(裏ソフト・表ソフト・粒高・アンチ)で詳しく整理していますが、ここで押さえておきたいのは「見た目が同じでも打球の性質はまるで別物になりうる」という点です。
選手たちは性質の違うラバーを同じ色にして両面に貼り、ラリー中に手の中でラケットをくるくると回す「反転」という技術を駆使しました。対戦相手からすれば、まったく同じ色のラケットから放たれているのに、ある時は強烈な上回転、ある時は無回転のボールが飛んでくるという悪夢のような状況になります。
同色ラバーを反転すると、色だけからは使った面を識別できません。対戦相手はラケットの動きや返球なども見て判断します。この識別の難しさと、当時の選手が感じていた心理的な負担は分けて考えましょう。

この同色ラバーを用いた戦法を理解する鍵は、同じ色でも両面のラバーの性質が違うことです。1970年代から80年代の試合を一律に「空振りが頻発した」「重苦しい展開だった」と描くことはできません。色以外にどんな情報から面を見分けたかに注目すると、後の改正の意味が分かります。
観客やテレビ視聴者にとっても、ラバーの性質を知らなければ返球の違いは分かりにくいものです。ただし、観客全体の評価やITTF内部の心情を推測するのではなく、規則の変更内容と当時の用具の例から経緯を確認します。
まずは、同色の異質ラバーを用いた人物の例として、蔡振華の用具を見ていきましょう。
蔡振華の反転戦術から見る、同じ色の難しさ
同色ラバーの戦術を知る手掛かりに、中国の蔡振華(サイシンカ)の例があります。R. Hudetzの用具史の回想では、裏ソフトとアンチを両面とも黒にした選手として紹介されています。人物の技術と、色による識別の難しさを分けて読みましょう。
蔡振華は、両面にまったく同じ色のラバーを貼っていました。片面は強打が可能な裏ソフト、もう片面は回転の影響を受けにくいアンチラバーです。反転して異なる面を使うと、色だけからは面を識別できません。
対戦相手は、彼のスイングの僅かな音の違いやボールが飛び出す一瞬の角度から、どちらの面で打たれたのかを必死に推測しなければなりませんでした。同じ色では面を見分ける手掛かりが少なく、返球の変化まで観察する必要がありました。
大きく振り抜いた強烈なスイングに見えても、実はアンチラバーで打たれた無回転のボールだったりします。相手が力んで返球しようとすると、ボールは無残にも空を切るか、台を大きく外れていきます。
彼の例は、同じ色でも両面の用具の性質が違うことを示しています。相手には色以外の情報から面を見分ける負担がありました。ただし、本人の強さを用具だけで説明したり、連盟内部の心情を推測したりはできません。
スポーツの規則には、双方が同じ条件で競技できるようにする役割があります。色の改正で変わったのは、異なるラバーのどちらで打ったかを見分ける手掛かりです。反転や異質ラバーそのものを禁止する内容ではありません。
「赤と黒」はいつ決まった? ルール改正の正確な二段階史
ここで多くの解説が「1983年に赤と黒が義務付けられた」と片づけてしまいますが、実際の経緯は二段階に分かれています。年表を正確に押さえておきましょう。
まず1983年、ラケットの両面に明確に区別できる色を使う規則へ変更されました。この年の変更はITTFの競技史で紹介されています。この段階の異色化と、その後の赤黒の指定を区別します。
その後、1985年の総会で赤黒の規定が決議されました。1985年ITTF総会議事録の3ページ・議案17は、世界選手権、大陸選手権、オープン国際選手権で1986年7月1日から適用する内容です。1985年は決議、1986年はその施行日と分けると、年の違いを読み取れます。
「1983年=赤と黒が決まった年」と一括りにせず、1983年の異色化と、1985年に決議された赤黒規定を分けましょう。議事録の施行日は1986年7月1日で、対象とする国際大会も記されています。
この一連の改正の目的は、何よりも「視認性の確保」にありました。ラケットのどちらの面で打ったのかを、相手選手だけでなく審判や観客にも一目で分かるようにする。これにより、「同色による騙し合い」という戦術は物理的に封じられました。
道具の進化を制限・調整するルール改正は、卓球史を通じて繰り返されてきました。ボールが38mmから40mmへ大型化された経緯も同じ系譜にあり、卓球ボールが38mmから40mmへ大型化された歴史で詳しく追えます。
なぜ「赤と黒」だったのか? 選ばれた理由
では、なぜ他の色ではなく「赤と黒」へと収束したのでしょうか。議事録で確認できるのは採択された配色と適用条件です。次の点は見分けやすさを考える際の観点ですが、そのまま当時の採択理由を証明するものではありません。
- 色の区別: 赤と黒なら両面の色を区別できます。ただし、個々の人や照明条件によって見え方は変わります。
- 卓球台との関係: 台の背景色も見え方に関係しますが、「緑の台の補色だから採用された」とする根拠は今回の議事録から確認できません。
- ボールとの識別: 現行規則では、黒の反対面をボールの色からも明確に区別できる明るい色にします。
- 映像での見え方: テレビの方式が赤黒採用を決めたという説明は、確認した一次資料にありません。撮影条件とルールの由来を分けて扱います。
色を分けると、試合前に確認した用具と打球面を結び付けて見られます。相手の回転を読むには、さらに当て方と球の動きも観察します。
反転戦術の使い手にも、異なる色から面を識別できる条件が適用されます。裏ソフトとアンチを組み合わせることや、ラリーで反転することまで禁止されたわけではありません。規則が変えた範囲を押さえると、現在の異質型とのつながりも見えてきます。

赤と黒で性能差はあるのか? どっちが強いかを検証
「赤のほうが弾む」「黒のほうが回転がかかる」という話は、卓球を始めると一度は耳にします。結論から言うと、バタフライは、同社の同じ種類のラバーなら色が違っても性能は同じと説明しています。
ラバーの性能を見る際は、表面のシートやスポンジの仕様を確認します。バタフライの公式FAQの色に関する説明は同社製品についてのものです。全メーカーの機械試験結果や、全製品に性能同一を義務付ける規格へは広げられません。
体感の違いを比べるなら、製品名と厚さ、使用状態をそろえます。異なるラバーを赤と黒に貼っている場合、感じた違いを色だけの効果にはできません。気になる製品は、そのメーカーの説明を確認してください。
初中級者がまず意識すべきは「赤と黒のどちらが強いか」ではなく「相手の赤と黒のどちらで打たれたか」を見て回転を読む練習です。色そのものより、色を手がかりに情報を読む力が勝敗を分けます。
フォアに赤・バックに黒? 配色の傾向と決め方
ルール上はどちらの面を表(フォア)にしても構いません。製品ごとの性能説明と選べる公認色を確認し、好みの配色を選べます。
フォアとバックのどちらを黒にするかは自由です。先に面ごとに使いたいラバーを決め、製品で選べる色を確認します。片面を黒にする条件はありますが、配色の多数派を調べて合わせる必要はありません。
自分のプレースタイルに合うラバーをどう選ぶかは、色よりもずっと勝敗に効いてきます。性能・打球感・予算からの選び方は卓球ラバーの選び方完全ガイドにまとめているので、用具選びで迷ったらあわせて読んでください。
色が分かれた後の戦い。視覚から推理、そして脳の演算へ
ラバーの色が「赤と黒」に分かれたからといって、卓球から騙し合いが消えたわけではありません。むしろ、欺瞞のレベルはより高度で知的なものへと進化しました。
現代の選手たちは、オープンになった視覚情報を逆手に取り、相手の脳に「誤作動」を起こさせる術を心得ています。その代表が、サーブ時のフェイクモーションです。色は見えているものの、インパクトの瞬間にラケットを激しく上下させ、どちらの面で当てたのかを視覚的に混乱させます。
あるいは、ラケットを振り抜く方向とはまったく逆の回転をかけるなど、物理を応用したトリックも洗練されていきました。色は分かっていても、その面で「どのように打ったか」までは必ずしも見破れません。
相手がどちらの色で打ったかを見れば、試合前に確認したラバーと結び付けて判断できます。ただし、それだけで回転量を確定できるわけではありません。この「色による判断」を、打球動作やボールの変化と組み合わせることが大切です。
2021年のカラーラバー解禁。赤と黒以外はいつから使える?
赤と黒の時代が長く続いた後、2021年に再び大きな変化が訪れました。国際卓球連盟が、2021年10月(10月1日施行)から、片面が黒であれば、もう片面は赤に加えてピンク・バイオレット・グリーン・ブルーといった明るい色も使えるという新ルールを適用したのです。
これにより、卓球場に再び鮮やかな彩りが戻ってきました。一見すると1980年代以前の何でもありだった時代に逆戻りしたように感じられますが、この新ルールには「片面は必ず黒であること」という鉄の掟がしっかり残されています。
解禁されたのは「もう片面」の色だけです。片面は黒で固定なので、黒との強いコントラストは保たれ、かつてのような色を使った騙し合いが再発しないよう設計されています。
なぜ今になって色が増えたのか。そこには、卓球というスポーツをより現代的でファッショナブルにアップデートしたいという狙いがあります。特に若年層のプレイヤーにとって、自分の好きな色のカラーラバーを選べることは、競技への愛着を深める要素になります。ピンクのラバーから放たれる強烈な一撃や、ブルーのラバーでの華麗なカットなど、ビジュアル面の楽しみも増えました。
色を巡る「見やすさ」の追求は、ラバーだけでなく卓球台にも及んでいます。台が緑から青へ塗り替えられた背景は、卓球台が緑から青へ塗り替えられた物語で読めます。視認性と公平性というテーマでこの記事と地続きの内容です。
手元の配色で確認する、使える組み合わせ
現在の色の条件は「必ず赤と黒」ではなく、片面が黒で、もう片面が黒やボールと区別できる明るい色です。ラバーの公認や大会の条件を満たすことを前提に、次のように見分けます。
| 配色の例 |
色の条件 |
理由 |
| 黒+赤 |
満たす |
片面が黒で、反対面を見分けられる |
| 黒+公認された明るい青・緑・ピンクなど |
満たす |
赤以外でも、公認色と識別の条件に合えば使える |
| 赤+青 |
満たさない |
色が違っても、黒の面がない |
| 黒+黒 |
満たさない |
両面を色で区別できない |
| 明るい色のラバー+ラバーを貼らない黒い裏面 |
裏面が無光沢の黒なら色の条件を満たす |
貼っていない面にも色の規則が及ぶ |
この表の「満たす」は配色だけの判断です。ラバー全体の公認や厚さ、傷みまで合格とする意味ではありません。また、ラバーを貼らない面は、打球面として使うための選択肢ではありません。
片面しか貼らないペンホルダーでは、黒のラバーを選ぶと、反対面には黒やボールと区別できる無光沢の明るい色が必要です。日本卓球協会の裏面の色に関する通知は、この場合の着色に特に赤を推奨しています。ラバーを買う前に裏面の仕上げを見ると、配色の取り違えを防げます。
フォアとバックのどちらを黒にするかは自由です。先に使いたい製品と厚さを決め、その製品で選べる色を確認してから反対面を組み合わせましょう。好きな色がないことと、その製品の性能が劣ることは関係ありません。
試合前のラケット検査と色のルール違反
公式戦では、試合前に相手と主審へラケットを示して確認できるようにします。大会によってはラケット検査(ラケットコントロール)も行われます。審判がラバーの種類が公認リストに載っているか、厚みが規定内か、そして両面の色が規定どおりかを確認します。
ここで両面が同色だったり、両面とも黒以外の色だったりすると、その用具は試合で使用できません。代替ラケットの用意がなければ棄権につながることもあるため、色の規定は「雑学」ではなく実戦の前提条件です。試合に出る予定があるなら、自分のラバーの色が現行ルールに沿っているかは事前に確認しておきましょう。
色以外の規定、たとえばブレードの天然木の割合や接着剤、貼り替え後の確認項目は、卓球ラケットの用具ルールで一覧にしています。
道具とルールの追いかけっこが卓球を進化させる
卓球の歴史を俯瞰すると、常に「画期的な道具や戦術の出現」と「それを制限・調整するルール改正」の繰り返しであることが分かります。
1950年代にはスポンジラバーが卓球のスピードを爆発的に引き上げ、1980年代には色を巡る心理戦がピークに達しました。近年でもボールの材質はセルロイドからプラスチックに変更され、サイズも38mmから40mmへ大きくなるなど、卓球の進化はとどまるところを知りません。
なぜ、卓球はこれほど頻繁にルールが変わるのか。それは、卓球が「道具への依存度が極めて高いスポーツ」だからです。わずか数グラムのラバー、コンマ数ミリのスポンジの厚さ、そして色の違いが、勝敗に致命的な影響を与えます。

「赤と黒」という色の規定は、一見すると小さな決まりごとに思えます。しかしそれは、卓球が「人間が中心となるスポーツ」として生き残るために、欠かせないルールでした。誰が見ても何が起きているか分かり、公正な条件下で知略を尽くす。その当たり前の価値を守るために、先人たちは多くの議論を重ね、時には偉大なプレイヤーの武器を奪うことさえ厭いませんでした。
まとめ
卓球ラケットが「赤と黒」に分かれている理由と、その背景にあるルール改正の歴史を整理しました。要点は以下のとおりです。
- 1983年以前は両面を同色にする規定があり、異なるラバーでも色だけでは面を識別できなかった
- 1983年に両面異色化へ変更。1985年に赤黒規定を決議し、議事録には1986年7月1日施行と記された
- 赤黒の採択は議事録で確認できるが、緑台の補色やモノクロTVを採択理由とは断定できない
- 性能はメーカーの製品説明を確認する。フォアとバックのどちらを黒にするかは自由
- 2021年10月から、片面が黒であればもう片面はピンク・紫・緑・青なども使えるようになった
次に自分のラケットを握る機会があれば、ぜひその「色」を意識してみてください。それは単なるゴムの色ではなく、かつての戦術家たちを沈黙させ、卓球に公平さをもたらした歴史の重みです。
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現在の試合で使用できる色を確認するには、ラバーの色と両面の貼り方のルールを参考にしてください。
よくある質問
卓球ラケットはなぜ赤と黒に分かれているのですか?
両面に貼ったラバーのどちらで打ったかを、相手や審判、観客が一目で見分けられるようにするためです。両面を同じ色にしていた時代は、性質の違うラバーを同じ色にして相手を惑わす「同色ラバー」の戦術が横行し、試合が見えにくく不公平になっていました。これを防ぐために、1980年代に両面を異なる色にする規定が定められ、やがて赤と黒の組み合わせへ限定されていきました。
赤と黒のラバーで性能に違いはありますか?
バタフライは同社の同じ種類のラバーなら、色が違っても性能は同じと説明しています。これは全メーカー共通の性能規格という意味ではありません。製品名と厚さを確認し、色だけで弾みや回転の優劣を決めないようにしましょう。
2021年から赤と黒以外の色が使えるようになったのは本当ですか?
本当です。2021年10月から、片面が黒であれば、もう片面は赤に加えてピンク・バイオレット・グリーン・ブルーといった明るい色も使えるようになりました。条件はあくまで「片面は必ず黒」で、黒との明確なコントラストを保つことで、かつてのような色を使った騙し合いが再発しないよう設計されています。
フォアとバックで赤と黒のどちらを表にすべきですか?
ルール上は、どちらの色をフォアにしても構いません。先にフォアとバックで使いたい製品と厚さを決め、その製品で選べる色を確認してください。配色の多数派ではなく、黒と反対面の色の条件を満たすことが購入時の確認点です。
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