SUMMARY
この記事の要約
憧れの選手が使う「キョウヒョウ」。名前は知っていても、紅双喜とDHSが同じメーカーだと知ると、少し用具に詳しくなった気がします。中国の卓球用具メーカー、紅双喜(こうそうき)が手がけるのは、ラバーだけでなくラケット、台、ボールも含む幅広い用具です。ブランド名が生まれた歴史、選手が用具に求めるプレー、似た名前の製品の違いをたどると、キョウヒョウを見る目も変わってきます。
この記事でわかること
名前だけでなく、ラバーとラケットの作りにも目を向けてみましょう。紅双喜とDHSは同じメーカー。キョウヒョウだけではない
紅双喜はメーカー名、DHSはそのブランド表記、キョウヒョウは製品のシリーズ名です。 DHSの名前は、英語のDouble Happinessとつながっています。「2つの喜び」という意味を知ってから沿革を読むと、中国卓球との関係が見えてきます。
名前に込められた1959年の2つの喜び
紅双喜グループの公式紹介によると、ブランド名が生まれたのは1959年です。中国の建国10周年と、容国団選手の世界選手権の男子シングルス優勝。その2つを祝い、周恩来が名付けたと説明されています。
選手の勝利と国の節目を、ひとつの名前で喜ぶ。現在のパッケージにある文字も、こうした由来を知ると印象が変わります。ただし、1959年はブランドの命名を示す年であり、前身の工場や現在の法人が設立された年とは分けて考える必要があります。
世界選手権から五輪の器材へ
公式沿革には、1961年の北京での世界選手権で器材が登場し、2000年シドニーから2024年パリまで、7大会連続で五輪の器材を供給したとあります。長い歴史の中で、選手が手に持つ用具だけでなく、試合をする環境にも関わってきたメーカーです。
2024年パリ五輪の競技台も、ITTFの大会資料ではDHSのRainbow IIです。一方、試合球は別メーカーのDouble Fishでした。テレビに映る台と球が同じ会社の製品とは限らない、という点も用具を眺める楽しみのひとつです。
| 時期 |
確認できる出来事 |
読むときに分けたいこと |
| 1959年 |
2つの喜びを祝ってブランド命名 |
法人の設立年とは別 |
| 1961年 |
北京での世界選手権で器材が登場 |
全用具の独占供給という意味ではない |
| 2000〜2024年 |
7回続けて五輪器材を供給 |
大会ごとの球・台のメーカーは別に確認 |
| 2025年 |
再生材を使うRS40+が国際大会で使用 |
全大会の球が切り替わったわけではない |
中国での存在感は、数字の対象を分けて読む
中国では、どれほど広く使われているのでしょうか。2016年6月15日掲載の経営陣による寄稿では、紅双喜の中国での卓球用具市場の占有率を約40%と説明しています。執筆者は当時の紅双喜グループの董事長・総経理です。対象はラバーを含む卓球用具全体で、算定方法は公表されていません。会社側が当時の規模を説明した数字として読む必要があります。
近年の資料では、智篆GIと天猫が発行した2025年の球技用品市場白書があります。阿里消費洞察を出所とする「MAT2025」の表で、紅双喜は卓球のブランド順位で1位に掲載されています。ただし、対象は淘宝・天猫内です。表には順位を決めた指標の詳細や集計期間の起点・終点がなく、中国全体の販売シェアやラバー単独の順位までは分かりません。
過去の会社側の説明と、近年の通販内の順位。その両方から、中国での存在感をうかがえます。 2016年の約40%を2026年のシェアとして扱ったり、白書の1位を販売割合に換算したりはできません。代表選手の使用状況や大会への供給実績とも分けて読むと、中国での広がりを、数字の意味を取り違えずに捉えられます。
2025年、再生材を使う試合球へ
DHSの開発は、粘着ラバーにとどまりません。ITTFが2025年8月19日に報告したRS40+は、再生ABSを65%使った試合球です。 家電などから回収されたプラスチックを原料に含み、2025年のEurope Smashで使われました。
同報告では、2月27日にITTFの機器部門へ提出され、3月18日に承認された経緯も分かります。材料を変えるだけでなく、競技に使えるかを検証し、選手の試打も行っていました。
孫穎莎選手は練習で大きな違いを感じず適応しやすかったと話す一方、フランチスカ選手は回転が少し少ないと受け止めています。これは選手それぞれの感想で、回転量を測定した結果ではありません。環境への配慮と、慣れた球でプレーしたい気持ち。その両方に向き合う開発だと読めます。
選手はキョウヒョウに何を求めているのか
好きな選手と同じ名前のラバーには、やはり惹かれます。でも、名前だけを合わせるより、その選手がどのプレーを変えたくて用具を選んだのかを知る方が、自分の練習にもつながります。
伊藤礼博選手が回転をかけ返すために選んだNEO3
ニッタクが2024年3月8日に公開したインタビューで、伊藤礼博選手は、フォア面をターボオレンジからキョウヒョウネオ3へ変更した経緯を語っています。変更したのは2023年2月。当時の本人の説明では、回転をかけ直すカウンターや、台より低い位置からのループに手応えがあったといいます。
ループは、回転をかけて弧を描くように打つドライブです。台より低く落ちた球を持ち上げるときは、ネットを越す高さも必要になります。カウンターは相手の攻撃に対し、こちらも攻撃で返す技術です。伊藤選手の話は、単に強い球を打ちたいという希望より、ずっと具体的です。
- 相手がかけた回転に対し、自分でも回転をかけて返したい。
- 台より低い位置の球でも、回転を使って攻撃したい。
- 台の端付近へ届く長さの下回転球にも、しっかり振りたい。
ここから読み取れるのは、最高速度だけでなく、相手の回転や球の高さにどう応じたいかが、用具選びの軸になるということです。返すだけになっていた球を、自分から攻める機会に変えたい。そう考えて読むと、粘着ラバーの話が型番の暗記で終わりません。
本人の経験を、自分の結果と混同しない
これは2024年に公開された伊藤礼博選手の使用経験です。2026年現在の使用用具を示すものではなく、同じラバーへ変えれば誰でも同じ技術ができるという保証でもありません。
馬龍選手・孫穎莎選手・王楚欽選手との契約をたどる
DHSの2025年3月29日の公式発表は、馬龍選手、孫穎莎選手、王楚欽選手を契約選手として挙げています。一方、伊藤礼博選手の前述のインタビューは、本人がその時期に使っていたラバーと選択理由の記録です。この発言だけで、DHSとの直接契約があるとは判断できません。
契約、使用経験、使用モデルの表示は、それぞれ意味が違います。 契約の発表はメーカーとの関係、本人の使用証言はその時点の経験、市販品の「使用モデル」は製品の説明です。選手用に調整された用具と市販品が、隅々まで同じ仕様だとまでは分かりません。
気になる選手の用具を調べるときは、発表日と、その情報が示す関係を確かめてみましょう。選手の名前だけでなく、いつ、どんな立場で語られた話なのかまで分かると、用具選びの理由も読み取りやすくなります。
鄧亞萍選手のラバーを再現できなかった、1997年の話
選手にとって、慣れた用具の感触はどれほど細かなものなのでしょうか。2005年4月18日の新浪体育のインタビューに、当時の董事長・黄勇武の回想が残っています。
1997年の世界選手権前、当時の鄧亞萍選手が使っていた旧ラバーの再製作を請け負おうとしたものの、金型が見つからず、同じものを作れなかったという話です。新しい製品を渡せば済むわけではなかったことが、経営者本人の言葉から伝わります。
この回想は、現在のDHS製品の品質を評価する資料ではありません。むしろ、選手が必要とする感触の微差を考える手掛かりです。自分のラケットでも、少し弾みが変わるだけで、いつものレシーブが長くなることがあります。「強い選手が使うから」で終えず、その人が残したいプレーまで想像すると、用具の話が面白くなります。
NEO3、ターボ、8-80。似た名前でも中身は違う
似た名前でも、スポンジの説明まで読むと違いが見えてきます。キョウヒョウの名前に興味が湧いても、NEO3、ターボ、8-80と並ぶと迷います。シリーズ名に加え、シートとスポンジの組み合わせを読むことが大切です。 以下は2026年10月18日に確認した、公式製品情報の比較です。
NEO3とターボオレンジはスポンジまで同じではない
ターボオレンジは、キョウヒョウプロ3のトップシートと日本製の高弾性スポンジを組み合わせた製品です。NEO3と似た名前でも、スポンジまで同じとは考えられません。表面に球を引っ掛ける性質だけでなく、その下のスポンジをどう使って打つかも、説明を読む手掛かりになります。
伊藤選手がターボオレンジからNEO3へ変えたという経緯も、片方が全面的に上位という話ではありません。本人が求めた技術と、その時期の感触が結び付いています。レビューで一方を絶賛していても、自分のラケットや厚さが違えば、同じ感想になるとは限りません。
粘着そのものの意味や手入れを確認したい場合は、粘着ラバーの特徴と扱い方で、表面の性質から整理できます。
8-80パワーが示す、食い込ませて打つ設計
8-80パワーの公式説明は、球を食い込ませて打つ弾力性を重視しています。バックでの使い方にも触れていますが、誰のバック面にも合うという意味ではありません。製品の狙いを知ったうえで、小さく振って返すときや、回転をかけるときに、何を重視したいか考えるための情報です。
同じ粘着系でも、球を弾ませる仕組みまでひとまとめにはできません。「中国ラバーは全部硬くて弾まない」と決めつけるより、メーカーが何を変えようとしているかを読む方が、違いを楽しめます。
硬度は基準とセットで読む
NEO3の42.5と中国基準39.0は、同じ掲載製品について示された別基準の値です。硬度だけを横断して性能の順位を付けず、厚さやスポンジの説明も確かめてください。
数字の読み方をもう少し知りたいときは、ラバー硬度の基準と選び方も役立ちます。低い数字を初心者向き、高い数字を高性能とする単純な並べ方はできません。
馬龍選手と王楚欽選手のモデルからラケットを見る
数値が似ていたら、重視するプレーの説明も読み比べてみましょう。ラバーと同じくらい、選手名を冠したラケットにも心が動きます。馬龍選手のキョウヒョウ龍5と王楚欽選手のキョウヒョウ王は、公式に使用モデルと説明される製品です。面白いのは、主要な数値が同じでも、公式説明で重視するプレーが違うことです。
龍5と王は、合板構成の数字だけでは選べない
| 確認項目 |
キョウヒョウ龍5 |
キョウヒョウ王 |
| 木材と特殊素材 |
木材5枚+アリールカーボン2枚 |
木材5枚+アリールカーボン2枚 |
| 素材の配置 |
インナー |
インナー |
| 板厚 |
5.9mm |
5.9mm |
| ブレード寸法 |
158×150mm |
158×150mm |
| 重量の目安 |
約89g(個体差あり) |
約89g(個体差あり) |
| 説明の重点 |
回転・速度に加え、台上を含む精密な制御 |
硬めの木材を使った前・中陣のパワードライブ |
重量は両製品とも公式では「89±g」と表記されています。インナーは、特殊素材をラケットの内側へ配置する構造です。どちらも同じ枚数と板厚ですが、木材の性質まで同じだと確認できるわけではありません。表を見て「同じラケットなのかな」と感じたときこそ、文章の説明を読む意味があります。
龍5の説明では、台の上で短く返すプレーやドライブを、狙ったように制御することにも目が向きます。王の説明では、前陣や中陣で強くドライブする狙いがはっきりしています。これは公式の設計説明を比べた読み方で、実際に試打して差を測った結果ではありません。
選手モデルを読むときは、寸法だけでなく、どんなプレーを重視した説明かも確かめましょう。 強打に憧れる気持ちと、サービスやレシーブを丁寧に収めたい気持ち。その両方を持ったまま、ラケットに求めることを考えられます。
憧れを、自分の用具選びにつなげるには
改善したいプレーと、残したい得意なプレーを一緒に考えてみましょう。好きな選手のラケットを調べる時間は楽しいものです。それでも、買い替えてから「ドライブは打ちやすいけれど、レシーブが長くなった」となるのは避けたいところです。改善したいプレーと、今できている得意なプレーを、両方書き出してみましょう。
- 改善したいこと:下回転の球を持ち上げるとネットにかかる、相手のドライブを返すとオーバーする、など。
- 残したいこと:短いサービスを出しやすい、バックのブロックを狙った位置へ返しやすい、など。
- 今の用具:ラバーの正確な製品名と厚さ、ラケット名。分かれば硬度の基準も記録します。
「回転を増やしたい」だけだった希望も、低い球から先に攻撃したいのか、相手の強い回転に押されず返したいのかで、考えることが変わります。伊藤選手の公開インタビューは、その違いを具体的にする手掛かりになります。
紅双喜の歴史をたどると、世界大会の台、選手が慣れたラバー、再生材の試合球まで、用具を作る仕事の広さが見えてきます。キョウヒョウという名前を覚えるところから、一歩進んで「どんな球を打ちたくて、この設計を選ぶのか」と考えてみてください。憧れの選手のプレーを見る時間も、きっと少し楽しくなります。
よくある質問
紅双喜とDHS、キョウヒョウの関係は?
紅双喜とDHSは同じメーカーを指し、キョウヒョウは製品のシリーズ名です。 紅双喜は「こうそうき」と読み、ラバーだけでなくラケット、卓球台、ボールも扱っています。
NEO3とターボオレンジは名前が違うだけ?
名前だけの違いではありません。ターボオレンジはプロ3のトップシートと日本製高弾性スポンジを組み合わせた製品です。NEO3と同じスポンジだと考えず、製品名、厚さ、硬度の基準まで分けて確認してください。
選手使用モデルは、本人と同じ仕様ですか?
使用モデルという公式表示だけでは、本人の試合用個体と市販品が同一の仕様だとは分かりません。契約の発表や過去の本人インタビューとも意味を分けて読み、選手の成績を市販品の性能保証にはしないことが大切です。
再生材の試合球は、公式大会でも使われていますか?
ITTFは、再生ABSを65%含むDHS RS40+が2025年のEurope Smashで使われたと報告しています。研究室の検証に加え、選手の試打も行われました。すべての大会で同じ球が使われているという意味ではありません。